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本エッセイは、株式会社ジェーシー・コミュニケーション代表の山本が、世界で体験してきた国際交流のエッセイ集です。49ヶ国/9年分の旅行や海外在住体験がつまってます。

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第五章 エクアドール共和国

ジャングルでの重労働に参加する


ある日、変わった作業に狩り出された。通常は木を守り育てていくのが我々の活動なのだが、この日は木を切り倒すのが仕事だった。なぜ自然保護団体が木を切り倒す必要があったかというとちょっと話が長くなる。ハトゥン・サッチャはこの地域に広大な土地を購入して、それを自然保護区として管理していた。周りにはジャングルなのだがインディヘナを中心としたエクアドール人達が畑として土地を耕している場所もある。そして樹木が密集しているジャングルからはちょっと想像しにくいがアマゾンは一般的に痩せてる土地が多い。農民がその痩せた土地を一生懸命耕しているのだがそれでも限界がある。ちょうどハトゥン・サッチャの隣にある痩せた畑を耕していた農民がいたが、彼が自分の畑とそれと同じ面積のハトゥン・サッチャの土地を交換してほしいと言って来た。その彼が交換したがっていた土地は比較的肥えている土地で農業には適していた。自然保護団体としては森を守る事が重要であって土地が肥えているか痩せているかは重要ではないし、また現地のコミュニティーと良い関係を築かなかったら保護活動も空回りするだけである。当然のようにこの交換の話は進み、そして決定した。

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そして土地の交換をやるにあたり対象となっている土地の測量をやる事になった。測量そのもののやり方は先進国と変わらず三脚の測量機器を使って三角測量をやる。これは対象となる地域を覆うように任意に二つの点を取っていき、その距離と角度を計算する事によって面積を算出する。そのためには各点を結ぶ線の視界を確保する必要があり、人手で樹木を切り開いてゆき測量出来るような状態にする必要があった。境界線にそってジャングルを切り開き幅二メートルくらいの一種の小道を作る。そしてこの小道をつかって測量をするのである。

この日は重い測量機材を担いで現場まで歩く事から始まった。四、五人のチームで作業する予定だったのだが、測量機材を運んだのは私ともう一人のボランティアだけで二時間後に現場に着いた時はもうすでに休憩が必要だった。脱水症状を防ぐためにおやつを兼ねて持ってきたオレンジをかじり、キャンディーをなめた後に作業に取り掛かった。我々の道具はマチェーテという中南米のナタである。刃厚はのこぎりよりちょっと厚い程度なのだが刃渡りが約六十センチあり、剣先が太くなっているので軽い割には結構打撃力がある。上手く使えば雑草から直径二、三十センチくらいの木までほとんどの植物を素早く除去する事が出来る。二メートルの幅を空けていくのに五人もの人間が六十センチの刃物を振り回すのは危険きわまりない。最初の一、二人は先行して大雑把に雑草その他の木を切っていき残りの人間は後ろから残った植物や枝をきれいに処理していく、というような流れでやった。

この日の仕事はきついだろうとは思っていたが実際はその想像以上にハードだった。当時私はマチェーテを使う作業はもう何度もやっており慣れているつもりだったが、この日みたいにハードな作業をやってみると力だけでなく技術もいるのだなという事がひしひしと分かった。例えば腕を振り回すより、手首を上手く使って切らないと疲れてしまうだけで全然効果はない。また太い木を切る時は十回も二十回もマチェーテを振り下ろす必要があるが、同じ個所に刃が当たる様に振り下ろさないと全然木が切れていかない。考えてみると当たり前の事だが実際にやってみると木に正確に刃を当てるのは難しいものである。そういう事を試行錯誤で学びながらの作業だった。それだけではなく、ジャングルといっても平坦な土地が続いているわけではない。土地の境界線は地図の上では真っ直ぐに引いてあるが、その直線には滑り落ちそうな斜面もあるし、場所によっては片手で草木を掴みながらもう片手に握ったマチェーテで木を切りながら斜面を登っていかなければならないような場所もあった。足場も安定してなく自分の安全も気を使う必要があった。

午前中はあっという間に時間が過ぎた。何時くらいに昼食を取ったかは憶えてないが、持参した炊き込み御飯のような弁当と、すきっ腹の胃に染み込むようなおいしさだけは鮮明に憶えている。その炊き込み御飯は小さめのポリバケツに入っていただけで分ける皿がなかったのでその辺りにある大きめの葉っぱを皿代わりにする事になった。私がおもむろに葉っぱをちぎって飯を盛ろうとすると、現地人ワーカーが私の葉っぱをひっくり返して「葉っぱの表は埃で汚れているので裏を使うときれいだよ」と言った。確かに理にかなっており、たかが葉っぱで飯を食うにもアマゾンの知恵があるのだなと思い面白かった。食後は大きな葉っぱを地面に敷いて少しでも昼寝をしようと思ったが汗だらけの体臭を嗅ぎつけたのか虫がうるさくて寝られなかった。

午後も作業が続いた。私はいつも作業には一リットルのペットボトルに水をいれて水筒代わりに持参していたがこの日はもう昼食の時点で空になっていた。午後は一滴の水も飲まずに作業を続けたが咽の渇きは極限に達し力が入らなかった。幸いなことに午後は二、三時間くらいしか作業がなかったので何も無かったが、もしあのまま無理して続けていたら脱水症状を起こしていたかも知れない。

作業の後はこの土地交換を申し出た農家の奥さんがチーチャをふるまってくれた。チーチャとは現地インディヘナ食文化の中心の一つで、茹でたキャッサバを水につけて一晩醗酵させた飲み物である。客が来たらチーチャをふるまうのが礼儀だし、チーチャを出されたら客は飲み干してしまうのが普通だというのが現地文化である。白くにごった液体にキャッサバの断片が混じっており、味は腐った酢のようなひどい味がする。酸っぱい物が苦手な私は普通勧められても少ししか飲めなかったが、この日だけはゲップがでるほど飲んだ。通常は発酵させた液体をそのまま飲むのだが、今回のように遠出した時はチーチャを何リットルも持ち歩けない。よって発酵したキャッサバ(アマゾン原産の芋のような食物)を持参して現場にある水に戻して飲む。奥さんが水を取った場所は水溜りに近いほどの小川で、水はよどんでおりとても清潔な水とは言えなかった。しかもチーチャは発酵食品のため、なれない外国人が飲むとひどい食あたりになる事が多い。しかし背に腹は変えられないとはこの事で遠慮なくおかわりしたし、また信じられないほど元気が出てきた。今考えると脱水症状を起こしかけている人間が水分を補給したら元気になるのは当たり前なのだが、その時は単純にアマゾンの伝統的文化を強烈に体験していた。彼等にとってのチーチャはただの飲み物ではなく、時にはこれを飲むだけで食事の替わりにするような重要なエネルギー源である。発酵食品は通常発酵の過程で栄養分が増すので食事の替わりにしても別におかしい事ではなく、彼等はチーチャさえ飲んでいれば一日中働けると言う。

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